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「花枝さん、そんな離れてたら肩ずぶ濡れだよ」
雨の帰り道、宇田くんが傘を持って私と並んで歩いてくれた。
ただ、この相合傘というシチュエーションが、男子と普段交流のない私からしたらハードルが高過ぎた。
なので出来るかぎり離れた方がいいかも。と距離を取る私に、宇田くんは私の方に多く傘をさしてくれた。
「いいよ、気にしないで。う、宇田くんが風邪ひいちゃうよ」
「いーよ、俺、頑丈だし」
片側が濡れるのも構わず、なおも私に傘を差す宇田くんに対して申し訳なくなりおずおずと彼に近づいていった。
その様子に宇田くんは優しく微笑む。
「そういえば、花枝さん、さっき教室で慌てて何か隠してたけど、あれ何?」
「あ、うん。・・・小説。文芸部で新しい部誌を発行しようって話があって。私が書いた新作」
「そうなんだ。ちょっと読んでみたいな」
「え、いいよいいよ。読まなくても」
「でも、読んでもらうために書いたんだよね」
「そうだけど・・・」
「あ、雨やんできたね」
宇田くんの言う通り、雨は止んで、夕焼けの美しい空が広がっていた。
どうやら通り雨だったみたいだ。
「虹、出てる」
彼の指さす方へ視線を追うと、虹がうっすらあらわれていた。
「キレイ・・・」
宇田くんはゆっくりと傘を閉じた。
「それじゃ、俺、これで」
「あっ」
「?」
帰ってしまおうとする彼を、私は引きとめた。
鞄を開き、自作の小説を取り出して、差し出す。
「面白くないとおもうけど・・・」
「サンキュ、ちゃんと読んで感想また伝えるよ」
片手を上げて手を振って去っていく彼の笑顔は爽やかで、姿が見えなくなった後もいつまでも瞳の奥に焼き付いていた。
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