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* 出会い
夜中の0時50分
俺は返し忘れていたDVDを持ってレンタルショップへ走っていた。
映画を三本借りたはいいが、結局一本も見ることなく延滞。
テスト期間に借りた過去の俺に言いたい、辞めとけアホ!
「4日間の延滞料っていくらなんだよ…」
寝不足と運動不足のダブルで息も切れ切れだ。
部活もしていない17歳の高校生はその辺のおっさんとそう変わらない。
とにかく、1時になると閉店して延滞がプラスされてしまうから必死だった。
「はぁっ、あと5分か……」
レンタルショップまであと100メートル、いや、あと60メートルの所で俺は足を止めた。
「は……?」
3階建てのビルの屋上に白い影が見えた。
一瞬、幽霊かと思ってフリーズしてしまったが、すぐにそれは人だとわかった。
「えっ……お、女の子?」
白いワンピースと長い髪をヒラヒラと風でなびかせながら、彼女は夜空を見上げていた。
天体観測か?自殺か?
そう思うより先に、月の光に照らされた彼女に俺はただただ目を奪われた。
ワンピースが天使の羽のように見えて、
空も飛べるんじゃないかと思うほど、非現実的で幻想的だった。
時間にしたらほんの10秒程度だっただろう。
俺はそのまま立ち尽くしてその天使を見ていた。
一瞬目があった気がしたその瞬間、白いワンピースが風で吹き飛んだ。
「わっ!!」と思わず手で目を覆った。
落ちたのか?
それとも、ワンピースが飛んで裸に…?とアホな考えが頭に浮かんだ。
恐る恐るゆっくりと目を開けたら彼女はこっちを見て微笑んでいた。
「騙されたでしょ?」と言わんばかりの、無邪気な笑み。
「あ・・・服着てた……」
それから彼女は、ひらりと身を翻しビルの向こうへ消えていった。
俺ははっと現実に返った。
「あ……DVD…」
時間は1時7分。
延滞料がプラスされた重たいDVDを持ったまま俺はまぬけな顔で立ち尽くしていた。
それが彼女との出会いだった。
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