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603話 エリー・ハーンは病み逝く世界の最期を見届ける。
終わりゆく世界。彼女は独り、瓦礫の山の頂で空を見上げる。
空は暗く、色のない霧だけが宙を漂う。
天上に星は無く、忌々しきあの塔だけが目前に聳えている。
彼女は敗北した。全ての力はあの塔に吸い尽くされ、そして世界全体が静止する。光さえもそれに抗うことは出来ない。
失意のうちに彼女は眼を瞑る。塔から吹き降ろす風は終焉の詩を奏で、瞼の裏に描く世界はその風の音にかき消される。
…無慈悲な絶望。この最悪が確定した瞬間、彼女は決まって定型句を呟く。
「 失敗。 」
その言葉に一切の感情はない。
同じ作業を延々と繰り返すロボットのように。同じ絶望を延々と繰り返す彼女には。夢も希望も。後悔も未練も。何もない。
どれだけの仲間たちと出会おうとも、どれだけの感動を分かち合おうとも、どれだけの犠牲を払おうとも。それらはすべて、今日という絶望の為の前座でしかない。
いっそ希望なんて抱かなければいい。と、彼女は思った。何もせず。何も感じず。夢だけを見ていたいと思った。
彼と過ごした日々は、彼女と、彼だけの────メルヘン。
せめてもう一度だけ、あの頃の夢を見よう。滅び逝く世界の風が奏でる葬送曲は、彼女の意識をゆっくりと遠退かせてゆく。
遠い世界の誰かが彼女に告げる。その言葉に彼女は驚き、眼を覚ます。それは、彼女独りが担うにはあまりにも重すぎる決断だった。
それでも、出来るかもしれない。と、彼女は呟いた。希望を抱き続ける事を諦めようとした彼女でも、この世界を救いたいという気持ちは変わらない。
この希望を、彼に託そう。
そして彼女は死んだ。
冒険をやり直すことは出来た。
過去なんて、何度でも書き換える事ができた。
勝てないなら、勝てるまで繰り返す事もできた。
それでも彼女は死んだ。
けれど、これでいい。
エリー・ハーンは未来の彼方で待つ。この歴史に、新たな希望が目覚めるその日まで。
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