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エンオーザー山脈の決戦(1)
時はプオリジア歴644年。熾烈を極めたプオリジア大戦記の中に、人知れず歴史の転機となる一戦があった。
のちに【エンオーザー山脈の決戦】と呼ばれるその戦いは、大戦を終結へと導く青年の輝かしき英雄譚の始まりでもあった。
*
トルデ砦の城壁の上に立ち、腕を組んで一人静かにエルシェンバラの夜空の眺める。涼しい風が黒の髪を戦がせ、二対の角は風を切り、尾が靡く。
天の光は全て星。そんな言葉を聞いたことがある。星は途方もなく遠い場所からこちらを見下ろしていて、どれほど手を伸ばしても指先一つ届かない。天と地を隔てる夜空はまるで、劇場の役者と観客を隔てるプロセニアムアーチだ。
「アルケイド!偵察終わったよ!」
俺の頭上を黒い影が通過し、黒い翼の鳥人、『フリンピーノ』が舞い戻る。噂をすれば夜空の星に最も近い奴が帰ってきた。
「なあフリンピーノ。空から大地を見下ろす気分って、どんな気分だ?」
「それ、前にも聞かなかったっけ?」
フリンピーノは首をかしげる。そう言えば確かに、以前にも同じような事を聞いた覚えがある。彼はあの時、何と答えたんだっけか。…今更聞くのも恥ずかしいし、この話はもう無かったことにしよう。
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