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黒い服の少年と白い服の少女は、互いに互いの言葉を復唱する。彼らの表情は年相応の無邪気な子供ではなく、まるで表情を形作られただけの人形のようだ。喋り声も淡白としていてまるで子供らしさがない。
「…君たちは誰だ?ここは死後の世界なのか?」
俺は尋ねる。死後の世界の話は本でいくらか読んだ事があるが、どの本にもこんな白い花畑の事は書かれていなかった。
「僕たちは君の歴史を傍観する者だ。」
「私たちは貴方の歴史を傍観する者です。」
復唱する二人。彼らは俺の質問に丁寧に答えてくれた。
「ここは歴史の外側だ。歴史上の君は死んでしまったけど、外側の君は今も生きている。」
「要するに、今の貴方は歴史という舞台劇を傍観する観客席にいるのですよ。」
「……観客席?」
俺の問いかけに、二人は頷いた。彼らは舞い散る花びらを空に巻き上げ、真っ白な空の彼方に大地の景色を映し出す。
間違いない。映し出されたのはエンオーザー山脈の光景だ。渓谷の形も、砦の位置も、俺の知る地図と完全に一致している。どういう仕組みかは分からないが、劇のように地上を見上げる事が出来るこの場所は、確かに歴史の観客席と呼ぶには申し分のない場所かもしれない。
「……!」
拡大される景色に三機の巨大な鋼鉄鎧の姿が映る。…俺を殺した三人だ。奴らは渓谷を迂回してトルデ砦へと向かい、俺を殺した鋼鉄の腕で守りの薄くなった砦の城壁に集中攻撃を仕掛けている。
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