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【1】 屋敷
電車に揺られながら、三礼子は小さく舌打ちをした。
細い足をぶらぶらと揺らす姿は見る者の心を和ませたが、当の三礼子の心の中には、黒い煙がぐるぐると循環していた。
古い木の匂い。
埃っぽい光。
チンチンと安っぽい音を鳴らして走る田舎電車。
取り巻くもの全てに不快感を覚えながら、目的地に着くのをじっと待った。
「古山ー古山ー」
三礼子は電車を降りた。激しい暑さに、一瞬目が眩む。袖無しの白いワンピースから伸びた腕と足が、日差しを浴びてじりじりと音をたてる。額から一筋の汗が伝い、頭を振った拍子に二つのお下げが頬を叩いた。苛立ってじだんだを踏む。
蝉の合唱に頭を痛めながら、電話番号のメモを手にして公衆電話を探す。やっと駅の裏に見つけたと思ったら、ちょうど故障中だった。
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