9人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
第一話 現世再誕……？
男は走っていた。普段仕事では座りっぱなしで滅多に走らないためか、身体は重く言うことを聞かない。スローモーションの様にゆっくりと動く視界の中、男の足は道路で転んだ女の子に向いていた。視界の右端にはおあつらえ向きなトラック。運転手は転んだ女の子に気付いてはいるが、衝突は避けられそうになかった。
故に、男は走っていた。スローモーションな視界が女の子の動きを事細かに彼の瞳に写す。トラックに気付き、逃げようと立ち上がり始める彼女の怯えた表情。彼女の様子は、男に確かな意思を抱かせた。一歩一歩歩みを進め女の子を突き飛ばされた。代わりにその男、兵藤剣佐はトラックに轢かれた。
痛みはなかった。視界は真っ黒になり、何も聞こえない。耳を塞がれているというよりは聴覚そのものが無くなったようだ。しかし、身体の感覚はあった。そのため、兵藤は自分が生きていると確信した。
「……いてっ！」
最初のコメントを投稿しよう！