9人が本棚に入れています
本棚に追加
続けようとしたところで授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。集中していた分それほど時間が経っていたようには感じなかったが、緊張していたためかどっと疲れが湧いてくる。額に滲んだ汗を拭いていると新崎先生が生徒たちに次の授業について案内していた。10分間の休憩の後再開するとのことで、生徒たちは席を立って各々休憩を始めた。
「兵藤さん、お疲れ様でした。緊張していたようですが……」
「ええ、人前に立つのは慣れてないので……教師の方も大変ですね」
先生は兵藤にも話かけてきた。男同士で年が近いためかこの教師と兵藤ははどうもウマが合った。若いだけあって色々苦労しているのか、彼のくたびれた雰囲気が伝わってくる。気持ちを落ち着けようといくつか彼と話をした兵藤だったが、その途中でまた別の人物に話しかけられた。
「ケン兄ちゃん、ホントに来たんだ!」
「おう次郎。ちょっと見ない間にまた背が伸びたな」
親し気に名前を呼んできた男子生徒、千早次郎に返事をした。今月高校生になったばかりの彼の表情は明るく、制服にはまだ皺ひとつない。疲れて元気のない新崎先生や兵藤とは対照的だ。
「名簿に名前が無かったんだが、田代ちゃんだけ別のクラスになったのか?」
「そう。あいつは三組。でも、同じクラスでも沙代里とついなは……」
一転して次郎の表情が暗くなった。彼の肩に手を置きながら、兵藤はもう一度教室を見回す。授業中に目に付いた一番後ろの空席と、窓際の席に座る少女。思わず肩に置いた手に力が籠もる。だが表情を崩さないまま、兵藤は不安そうな次郎に笑いかけた。
最初のコメントを投稿しよう!