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事件が起きた正確な時刻は分からない。通報者は彼女と一緒に廃工場に勝手に忍び込み工場内を見て回っていたそうだ。一通り見た後、公園で休憩を取っていると彼女がトイレに行った。しばらく座って待っていると誰かに後ろから殴られ気絶し、目が覚めた時トイレには誰もいなかったそうだ。
「きっとゾンビにされちまったんだ……」
「ゾンビ?」
「あんたも聞いたことあるだろ?廃工場のゾンビの噂……」
すっかり悲観しきった通報者は兵藤にそんな噂話をした。確かに兵藤も噂として聞いたことはある。だが、そんなものは所詮噂だ。兵藤は微塵にも諦めた様子を見せず、優しい口調で彼に語りかけた。
「……本当に彼女さんに生きていて欲しいなら、希望を捨てず祈り続けるんだ。この街には何もかもが足りないが、神様はいるんだから」
それだけ告げると兵藤は立ち上がった。話を聞き出している間に、サジェもエルフらしく専用の弓と矢筒を背負い準備を済ませていた。この弓矢は普段分解して持ち運ばれ、組み立てればエルフの優れた弓術の全てを発揮できるようになっている。エルフの弓は銃弾よりずっと器用で強力だと兵藤は確信していた。
「それを準備してるってことは、手掛かりがあるんだな?」
兵藤の質問にサジェは頷く。
「トイレの中で、透明な液体が床に染みを作っていた。染みは建物の外から廃工場の方向に続いている」
「よし。あんたはここで待ってな。すぐに警察が来てくれるかな」
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