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そう通報者に言うと、サジェと兵藤は染みの追跡を始めた。残された彼は震える手を合わせてじっと祈った。ただ純粋に恋人の無事を祈る彼の思いが神様に届いたかどうかは分からない。だが、彼は兵藤に言われた通り祈ることしか出来なかった。
「そういえば」
追跡の途中で、思い出したようにサジェが口を開いた。荒れ果てて雑草が伸び、物が散乱する工場の裏道を移動する間にさんざん物音をたてているからか、今更静かにしようとは思っていないようだ。なんだと返事をするとサジェは淡々とした口調で話を続けた。
「ゾンビが出るんだな。ここでは」
「……まあな。俺も何度か噂を聞いたことがあるが、正直眉唾ものだと思うぞ」
「マユツバとはなんだ?野菜か?」
真実とは思えないってことだと返しつつ、兵藤はゾンビというものについてアレコレ考えを巡らす。ゾンビ、簡単に説明すれば生きている死体。身体のあちこちが腐敗し、生前の知能など伺わせない食欲だけで動くもの。これが最も一般的なタイプのゾンビだと思うが、最近はゾンビも多様化が進んだのか、走ったり道具を使ったり、火に弱いはずの死体なのに燃えても平気だったりするらしい。
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