第一話 現世再誕……?

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  ふと、頭に痛みが走った。その瞬間、柔らかい風が吹き抜けていった。聴覚が穏やかな風の音を知らせ起き上がると、そこには見たこともない草原が地平線まで広がっていた。先ほど女の子を助けた時とはまるで違う光景である。目が覚めたなら普通は病院にいるはずだ。  しかしここが病院とはとても思えない。いわゆる死後の世界かと考え始めた兵藤は、すぐに一つの結論に至った。そうだ。これは今話題の…………。 「異世界てんせ……痛ぁっ!?」  二度目の衝撃に、今度は確実に目が覚めた。さっきまで見ていたのは夢だったのだ。兵藤は誰もいない仕事場の一室で、机に突っ伏したまま休憩を取っていた。それがいつの間にか夢を見るほど深く寝てしまっていたらしい。欠伸をし、固まった身体をほぐそうと背伸びする。その間も彼は夢についてあれこれ思いを巡らせた。  剣と魔法のファンタジーの世界と言えば、夢見たことのない者の方が少ないのではないだろうか。人知を超えた怪物に、スリル溢れる冒険。子供の頃にゲームや漫画で没頭し、誰もが自分も同じ体験をしてみたいと思った。    しかし、子供であった兵藤は大人になった。今ではファンタジーは全て夢の中の話だ。彼の机の上で、不思議そうな顔をして見上げてくる小さな妖精を除けば、だが。机の上に広がった資料を纏めたファイルを見るに、どうやら先の頭の痛みは、彼女がファイルをわざと頭へ落としたかららしい。 「……起こしてくれたんだな、ありがとう」     
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