第一話 怪異追跡

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「ま、それ以前に知能のないゾンビが、通報者を襲わず気絶させるなんてありえないし……そもそも日本は火葬が大半だしな」  ゾンビは現れないと根拠をあげるたび彼女の表情は曇っていく。兵藤は妹が小学生になったばかりのことを思い出していた。当時中学生だった兵藤がある秘密をばらしたとき、妹は今のサジェのように表情を曇らせた。妹の機嫌を直すために、彼は泣く泣く母が不器用に切り分けた不均一な大きさのケーキの一番大きい部分を妹に譲らなくてはならなかった。ケーキを食べた後、妹はいつもの明るい笑顔で翌日枕元に置かれるプレゼントは何がいい楽しそうに話していた。 「……それより、なんでそんなにゾンビにこだわるんだ?」 「ああ、実は最近エイガを見るのにハマってな」 (やっぱりか)  嬉しそうにサジェは答えた。実際、ロクな娯楽のない異世界の住人は、こちらの世界の漫画や映画などの娯楽に熱中しやすい。もちろん、前提知識が必要な作品もあるため全ての作品にハマるわけではないらしいが。しかし、ゾンビパニックというジャンルは頭をカラッポにして見ることが出来るため、サジェは見事にハマってしまったようだ。 「もしケンサがゾンビになったら苦しまないようにする。安心しろ」 「そりゃいい。ヘッドショットの練習もしとかないとな」     
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