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皮肉を込めて返したつもりだがサジェは相変わらずニコニコとしていた。兵藤は呆れて先を急いだが、サジェは付いてきながらもその間ずっと映画の感想を喋っていた。表現力のない彼女の感想は小学生の感想文のようだった。
そうしている間にも地面の染みは続いていく。今まで乾いて染みになっていた液体が次第に地面に残るようになっていた。つまり、二人は犯人に近づきつつある。流石に今までのような雑な移動はやめ、物音をたてないよう慎重に追跡を続けながら、兵藤は曲がり角の先を覗き込んだ。工場の一角の開けた空間、そこに一人ぽつんと立っていたのは……。
「……沙代里ちゃん!?」
制服を着た後ろ姿だけでも、兵藤にはその少女が春休みの間に行方不明になったついなの友人、宗像沙代里だと分かった。思わぬ形で再開した彼女に駆け寄り、兵藤はその肩に手を掛けた。彼女の無事を確かめたい一心だった。そして彼女が振り返ろうとした瞬間、兵藤はふと先ほどサジェとした話を思い出した。ゾンビ映画でよくある展開だ。死んだと思っていた仲間が無事で喜び、後ろから手を掛けた時既にその仲間は……。
沙代里が振り返った。彼女の眼は正気を失っていた。髪や頬、服は兵藤が追ってきたらしき液体でべっとりと濡れている。兵藤が何か答える前に、沙代里はその正気を失った瞳に映る、兵藤の首に掴み掛かった。
「沙代里ちゃ……っ!?」
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