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一方その頃、兵藤剣佐の妹、兵藤ついなは中学からの友人たちと一緒に、高校からの帰路に就いていた。学校から北側へ向かっているが、彼女の家の方向ではない。同じクラスの千早次郎の家でもない。一人だけ別のクラスになった、田代あずみの家に三人は向かっていた。
「なんで俺とついなまで……」
「だって怖いもん!2人も聞いたことあるでしょ?ゾンビの噂!それに、さよちんだって……」
兵藤たちが言っていたゾンビの噂はついなたち高校生の耳にも入っていた。むしろ噂好きな若者たちの間こそ、そういう噂が広まるのかもしれない。普通の高校生ならたかが噂と思うかもしれないゾンビの目撃譚だが、三人は既に旧友の宗像沙代里の失踪を経験していた。彼女もまた、中学からの友人の一人だった。
「いなくなっても、ケン兄ちゃんが見つけてくれるって。沙代里だってすぐにケン兄ちゃんが……」
「剣さんを疑ってるわけじゃないけど……特別委員って忙しいんでしょ?ね、ついな」
話を振られてついなは静かに頷いた。異世界融合が起きて以来、ついなの周囲の環境は目まぐるしく変わっていく。以前は仕事をこなしながらも、夕飯時には兄も一緒に食卓に就いていた。だが、最近は帰りが遅い日が殆どで、ついなは一人で家にいることが殆どだ。それに、不意に見てしまった彼の身体にはところどころ包帯が巻かれていた。
「……本当は今日も、放課後一緒に買い物に行く約束だった。でも」
兄は窓から飛び出してしまった。
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