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「あのさ」
「今度は何?」
「俺、また引っ越すんだけど」
「嘘!? いつ!?」
「来週」
書きながら言うまあるくんは、平然と言う。
嘘でしょ、いなくなっちゃうの?
だって転校してきてからまだ1年も経ってないよ?
言いたいことも言えてないのに。
「だから秘密なんだけどさ」
言葉を続けるまあるくんに、何て反応したらいいのか分からない。
突然押し寄せてくる寂しさと悲しみに、まだ子どものあたしは追いついていけない。
「絶対誰にも言わないでほしいんだけどさ」
「…うん」
平然を装うと頬杖を付くあたしは、彼の文字を追いかけながら、ドキドキと音を立てる心臓にきゅっと唇を噛みしめた。
つと止まった文字を書く手。
突然の静寂に、息が詰まりそうになる。
また悲しいことを言われるんじゃないかと手のひらをぎゅっと握りしめると
「…俺、転校してきてからずっと、ふわりちゃんの机動かしてるんだよね」
目の前にいる彼はそれだけ言うと、再度文字を書き始める。
あまりにも流れるように言ったせいで、今聞いた言葉はすべて空耳だったのではと思ってしまう。
あたしが言葉をなくしたせいで、余計にシャーペンのカリカリ言う音が耳についた。
「…まぁ…来週転校するまでは、止めないつもりだけど」
あたしはまばたきを忘れ、小刻みに揺れる彼の長い睫毛を見つめていた。
彼の顔は夕日に染められて少し赤く見えた。
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