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祥吾さえ知らなかった、生まれる前の明人の存在──それを、どうして彼が知りえたのか。
まるで天啓のように、祥吾は思い至った。
これまで少し妙だなと思いながらも、深く追求してこなかった、いくつもの点。それらが不意に繋がる。
こんなに明白なことに、どうして今まで気付かなかったのだろう。
「私を監視していたのは──お前か、高虎」
大橋の差し金ではない。
それなら、全ての辻褄が合う。
唐突な質問に、少しだけ驚いたような顔をしてから、彼は笑った。
「お前は美人だし、スタイルが良くて、後ろ姿でも目立つからな。加えて、行動範囲も程々に広いし、尾行に気付いても適度に無視してくれる。おかげさまで、部下に良い訓練が出来たよ。時々難易度が極端に跳ね上がるのが、また良い刺激になってな。一部では無理ゲーとか言われて、誰が一番に攻略出来るか競っているみたいだ」
否定するどころか楽しげに語られて、祥吾は困惑を隠せない。
十七年──海外にいた間も含め、彼は祥吾の動向を、ほぼ正確に把握していたことになる。筋金入りのストーカーだ。
そこまで執着されれば、普通は、嫌悪や恐怖を覚えるだろう。それなのに、どこか心の片隅で、微かに喜びに似た温もりを覚えている自分がいる。
あっさりと関係を断ち切ったと思っていた彼が、その後も、ひたすら祥吾の動向を気にしていた──その事実が、頑なだった祥吾の心に、じわじわと染みて来る。
彼の言葉が真実だと、証明出来るものは何も無い。
だから祥吾は、何度となく、彼の言葉を疑った。
それは、自分を戒めていたからに他ならない。
本当は──彼の言葉を、信じたかったのだ。
そのことを、祥吾は認めないわけにはいかなかった。
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