境界の神様

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「だめよ」  降参、というように少女は肩をおとした。 「まず、最初からだめ」  その生き物は、他の生き物がうっとりと憧れる全てのものを持っていて、どんなに理不尽かつ不条理に罵倒しようとしても、無理があった。 「ばかなやつだな」  生き物は笑うことをやめた。 「ばかなうえにじゃまだ」  声までつめたくなった。  少女の足は固まり、コンクリートにくっつけられた。 「はやく出ていけ」  つめたい声で生き物は言った。少女はコンクリートにくっつけられたまま、虚勢をはって「なによ」と吠えた。 「なによ。なんなのよ」  きゃんきゃんと吠えた。 「なんであたしがあんたにそんなこと言われなきゃならないのよ」  潰しておけばよかった。足で踏みつけて、この、氷みたいにひんやり光る忌々しい目を、潰しておけばよかった。 「ならば聞くが」  少女がじだんだを踏むと、生き物は硝子の縁取りに指をあてながら、少女の方を見もせずに言った。
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