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退職まで考える必要なんてない。彼女は北の出身、ここから乗り合い馬車で片道十日以上かかる。戻ればこの嘘はばれるが、そこから戻ってくるのにも十日はまたかかる。
合計二十日。事を起こすには十分だ。
「急いで帰った方がいいよ。メイド長様には、僕から休職の届けを出しておくから」
「でも…」
「お父さんも困ってるよ。それに、お母さんも」
気遣わしくそう言えば、シンディも気持ちを決めたように頷いて荷をまとめ始め、その日のうちに城を後にした。
チェルルは小間使いの少年の退職届を出した。理由は、やりたい仕事が見つかって師に教えを受ける為とした。
そうして一度城を出ると、今度はシンディに化けて翌日戻ってきた。
当然同僚達は驚いた。
「早馬便に手紙を出しに行ったら、そこで偶然私宛の手紙が届いているって。どうやら、近所の方が助けてくれるから心配ない。少しずつ、回復しているからとあったので」
そう言って、何食わぬ顔で休職届を取り下げたのだ。
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