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なんて意地悪。彼が望まなくても今日の夕食は肉だ。味付けも少し濃くした。薬膳料理であるのはそうだが、もう食感もしっかりあるものでいい。落ちた体力を戻してやらないと。
チェルルは「むぅぅ」と唸っている。けれど突然ポンと手を打った。何か妙案がでたようだ。
ちょこちょこと近づいてきたチェルルは、僕の前に立つと首に腕を回して伸び上がってチョンと、唇に触れた。猫が親愛を示すような、軽すぎるものだ。
「ねぇ、お願い」
「君ねぇ」
「だめぇ?」
まったく、どんな猫だろう。恥ずかしげもなくキスなんて。
「誰にでもそんな事してるの?」
呆れて言えば間近の黒い目がキョトッとして、首を左右に振った。
「しないよ? 俺、これでも身売りはしないんだ」
「え?」
ってことは、さっきのはどういう気持ちだったの? 逆に聞きたい。
チェルルはちょっとだけ顔を赤くして、次にそっぽを向く。体もパッと離してしまった。
「俺、先生の事わりと気に入ってるから、特別ね」
数歩先をぽんぽんと軽やかに進んだチェルルは、困ったみたいにはにかんだ。
「それより、ケーキ食べたい!」
「あぁ、はいはい」
僕が振り回されるなんて、なんだか気に入らない。でも……猫はいつも僕を振り回すのかもしれない。仕方がないな、可愛いから。
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