紫陽花の傘

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急に雨が降ってきたって、私は慌てたりしない。 朝の天気予報を確認して、少しでも雨が降りそうな日は、長傘を持ってきているからだ。 だって、制服は1着しかないわけだし、梅雨だからって濡らしたくない。 だから、教室の窓から外を覗いて、だんだんと雨が強くなってきていても、私の心は平穏だった。 クラスメイトが「えー、傘持ってきてないよ」と声を上げる。 そんな声もふっと微笑んで聞いていられた。 しかし、というか、やはり、よく知っている声が聞こえた。 「俺も持ってきてないわ」 私の幼馴染の直樹だ。 保育園の時から小中とずっと学校が一緒だ。 同じように育ってきたはずなのに、どうしてこの人は毎回毎回傘を忘れるのか。 今日も私の傘に一緒に入れてあげることになりそうだ。 家が近所だから仕方ない。 本人は傘なんてなくても気にしないのだが、息子がびしょ濡れの制服で帰って来たら、あの心配性なお母さんが可哀想だ。 「また忘れたの?天気予報で雨降るって言ってたよ」 「朝に天気予報見てる時間なんてないだろ」 「そもそも今は梅雨なんだから、いつも折り畳み傘くらい持っときなよ」 「いらないよ」 どうして、そんなにはっきり言い切るのか。 持ってきた方がいいに決まってる。 けれど、直樹が折り畳み傘なんて持ってるところなんて、一度も見たことないなと思った。
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