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「こ、こんにちは」
大げさに口角を上げて笑う。
とりあえず愛想よく挨拶をしてみた。
やっぱりお店だったのか。
ただ、もしそうだったとしても、まだ私は買うなんて言ってない。お客さん認定をするのはやめてほしい。
「ふむ、高校生のお嬢ちゃんかい」
私のことをじろじろと観察して、何か考えてる様子だ。
「は、はい……」
何を言われるんだろうか。
早く立ち去りたいが、返事してしまった以上、逃げることが出来ない。
お婆さんは、イタズラを思いついたみたいに不敵に微笑むと、積み重なった傘の中から一本取り出した。
「お嬢ちゃんにぴったりなのは、これだね」
白い傘だ。黒い線で模様が描かれているようだけど、何かわからない。
「ほれ、開いてみ」
おばあさんは傘を差し出した。
この状況は受け取るしかなさそうだ。
恐る恐る受け取る。
持ち手のところにボタンを探したけれど、ジャンプ傘ではなかった。
ゆっくり開くと、そこには傘一面に紫陽花が描かれていた。
繊細な筆使いで描かれていて、色が塗られていないのがもったいないと思った。
「わぁ、すごく綺麗。おばあさんが作ったんですか」
「まあ、そうとも言うかの」
こんな素敵な傘を作れるなんて、きっと傘職人だ。色んなところで露店を開いているのだろう。
私は傘をくるくると回して見惚れていた。
「それはお嬢ちゃんにあげよう」
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