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理由を教えて
屋上のフェンスを越えて下をのぞきこんで考える。
一歩前に踏み出せばあとは一瞬の落下のあと死ねることだろう。
「早まるんじゃない!!」
そんな矢先に背後から声を掛けられ振り返る。
状況から見て、正義感溢れる見知らぬ誰かが自殺を止めにやってきたのだろう。
「何があったのかは知らないけど、話を聞くくらいは僕でもできる。よかったら話してくれないか」
慎重に、探る様に言葉を選んで必死に呼びかけてくる彼に僕は答えを考える。
「ふむ、私が死ぬ理由か…強いて言うなら生きる意味を見失ったから。かな?」
「生きるのに理由なんて必要ないだろ!どうしても必要だと言うのならこれから見つけて行けばいい!」
「『生きるのに理由なんかいらない』か。なかなかいい答えだな。私が生きる理由を聞かれたときには『死ぬのが怖いから』としか思いつかなかった」
「それならそれでもいいじゃないか。生きたいと思えるなら理由なんてそれだけでも!!それとも今はもう死ぬのが怖くないなんて言うんじゃないだろうな」
「いや、今でも死ぬのは怖いと思っているよ。現に最後の一歩に迷いが生じていたところだ」
「それなら――」
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