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「だが、『死ぬ恐怖』以上に『生き続ける恐怖』の方が私の中で大きくなってしまったのでね」
誰が言ったか、曰く、「先の短い老後に病院で無理やり生かされ続けるよりも、安らかに眠らせてほしい」と。
『未知なる死の恐怖』と『既知なる生の恐怖』その二つの恐怖の天秤が傾いたときに人は死にたいと願うのではないか。それが私の自論である。
だから聞かれて思いつく理由なんてそれだけ。
そして、それだけの理由で未知への一歩を踏み出すのは非常に勇気がいるもので、迷っていたところだ。
目の前の彼は必至になって私を呼び止めようと話しているが、もう私には何の意味もない言葉だ。
「ありがとう。『生きるのに理由なんかいらない』。その言葉に救われたよ」
その言葉を最後に私は彼に見送って貰った。
『生きるのに理由なんかいらない』『生きたいと思えるなら理由なんてそれだけでいい』
ならば逆に『死ぬのにも理由なんかいらない』『死にたいと思ったなら理由なんてそれだけでいい』
なにも難しく考える必要はなかったのだ。いろいろ考えて迷うから恐怖が増大していく。
一歩踏み出す、それだけで私の望みは叶う。ただそれだけでよかったのだ。
人生最後に話しをしてくれた彼は、まぎれも無く私の救世主だった。
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