決別

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花開くように、全てがきらめく春の日のように。貴方の傍に在れた幸せが。 今も。今でさえ。私の全てを支配する。…今は。今だからこそ、それだけが全て。 一目会えたら。その為にだったら、今度こそ全てを賭けられる。今はもう、他に何も無いから。 仕方の無い奴だと呆れられても良い。不用だと、足手まといだと言われても良い。 貴方の邪魔になるからと、貴方の手で切り捨てられるなら、…もっと良い。 大姫と政子の厚意によって照らされた道を進む為に、静は旅立ちの支度に取り掛かる。母を残して行くのは忍びないけれど、遥か奥州を望めば困難であろう道程が思い浮かばれ、二人は泣く泣く道を(たが)えるしかないのだと、心を決める。 「今や、鎌倉殿と対立してしまった九郎判官殿を、飽くまでも慕って付いて行くと言うのですね。」 そう言った静の母、磯禅師の声は悲しみに震えるのを必死に耐えているようであった。 無事に再会出来たところで、行き着く先など決まっているだろうに。と。 それでも、後を追う事に躊躇いを見せぬ静に、思い止まらせるのは無理なのだと彼女は悟る。 それに、今さら… その選択肢を措いて他に静の心を癒すものが無い事も、分かってはいるのだ。 それ故、互いに此れが今生の別れに為るであろう事を、感じていた。     
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