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何も知らぬ赤子を。寄る辺無くした女から取り上げて。きっと抱き締める間も無く取り上げたのだろう。そしてそのまま海に沈めたのか。
かたり、という微かな物音に、大姫は我に返る。そうして静の許に出していた使いが戻って来た事を知る。
「様子は如何でしたか。」
聞く迄も無いと分かっていながら、それでも気掛かりで仕方なく。
「かなりお疲れの… いえ、大変お心をいためていらっしゃるご様子でした。」
「そう… 御苦労でしたね。下がって良いです。」
寧ろ、心を痛めたのは大姫のようであった。幼くも美しい顔を歪める。
「嘘、を、吐くのは忍びないのです、本当は。けれど… 彼の方には何のような品々も、その心を慰める事は無いのではないかと…
…私の心が、他の何物でも癒されずに居るように。これからも、癒される事が無いように。そう思う事は、独り善がりな思いでしかないのでしょうか、お母様。」
くゆる灯の向こう側、やはり遠い過去の自分に静を重ね、眉根を顰める政子に問いかける。
「そうですね。我が子を失い、まして愛する人まで失いかけている彼の人には… 私達が与えた品々等塵に等しいのかもかもしれませんね。」
ふ、と自嘲気味に政子の顔が歪む。
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