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ゆめうつつ。
ゆらぐ意識の中でさえ、憎しみだけがやけに鮮明に其処に在る。ゆらゆら波打つ闇の中に…
波打つのは僅かばかり見知らぬ気配が在るからだ、と静は覚醒した。
実に不快であった。頬に貼り付いた髪に、泣き濡れ嘆き疲れてそのまま寝入ってしまったのだと知らされる。
嗚呼。此の深い闇夜に融けて消えてしまえていたら。否、それでは、彼の憎いだけの男に、一矢報いてやる事さえ出来はしまい。
いいえ、寧ろ、いっそ此の命を絶ち怨霊と成り果て… と、取り止めも無く悲しみと憎しみの赴くままの思考を中断する。
はて。
此処には自分独りしか居なかった筈だ。それに、此の気配には覚えが無い、と思う。此の何者か判らぬ気配に起こされたのだ。自然と眉が寄る。
「誰…」
泣き疲れた声は、嗄れていた。哀れな程に。
「大姫様より使わされた者でございます。」
正体の分からぬ声が、密やかに答えた。
内密に、との事ですので… そう続けた気配が、何かを、するりと静の許に忍び込ませた。そうして自らは音も無く何処かへと消えて行った。
「大姫…」
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