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呟く声に憎しみと怒りが滲んでいる。頼朝の娘が、今更何の用が有ると。視線を移動する。そこに在るのは文のようであった。
「何のつもり、まだ言い足りない事でもあるの。」
それを手に取り呟く。怒りと悲しみで、文など千々に引き裂いてしまいそうであったが、何とか思い止まる。
内密に、と言う言葉が気にかかった。誰にも知られてはいけないという事。それは、恐らく頼朝にさえも。だとしたら、此の文の内容とは。沸き上がる感情を抑え、それでも震える手で大姫からの文を読もうと。
月の光を頼りに軽く目を通す。
はらり。落ちた涙は何ゆえだったか。
溢れる涙は止まる事を知らず、欠けた月が滲んでその姿も分からなくなる程に。それでは文など読める筈も無いのに、言葉が木霊するように流れ込んでくる。
泣き疲れ涙も涸れ果てたと思っていたのにと、ぼんやり思う。その儘。
はらはらと、開いた両の目から流れ落ちる涙を拭う事も、暫しの間忘れていた。
「生きている…」
男子だったが故に、産声を上げたと同時に此の腕に抱く間も無く奪われ、命を摘み取られる事だけが決まっていた、我が子が。
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