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やがて何程残酷な結果をもたらすのかなど、貴方は知らぬまま。
私には、貴方に縋り泣き伏す以外の術は無く。
そんな私を宥め、貴方は、
「此れを見る度に、私を見ると思ってくれないか。」
と、常日頃愛用されていらっしゃった鏡を私に手渡されました。
貴方が居ない、という事には変わり無いのに。此の姿鏡が私を守ってくれる訳では無いのに。貴方が居なければ、ただの鏡、貴方を映さぬただの鏡。
そう思うと、涙は止まる筈も無く。
──見るとても うれしくもなし 増鏡 こひしきひとの 影をとめねば──
私にとって、貴方を映す事の無い此の鏡に何程の価値が有るのかと。貴方の傍に居る事の出来ない未来に何の意味が有るのかと、ただ、悲しくなるだけで、詠む歌にさえ悲しみも未練も滲むと言うのに。
そんな私の心を知ってか知らずか、貴方は。
──急げども 行きもやられず 草枕 しづかになれし 心ならひに──
そう詠んだけれど。数々の宝をくれたけれど。それが一体、此の悲しみをどう贖ってくれると言うのでしょうか。此の先、少なくとも来年の春迄は、…もしかしたらもう此の岸では会う事も叶わぬかもしれない、此の状況で。
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