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決別
ゆるりと目が覚める。数日振りに目覚めの良さに、静は気付いた。心が、少しばかり晴れている。
僅かばかりの光だけれど。欠けた月のような淡く頼り無げな光だけれど、道を、照らしてくれたのだ。それは、確かに。生まれたばかりの命が、確かに存在するという光が。
だから、後は。今度は、もう一度貴方に。
ただ、彼の日、吉野山での別れだけが、今もなお。貴方からの別れの言葉が、胸に突き刺さったままで、血を流したままで。
此の岸にただ独り、置き去りにされたような寄る辺無さに身を震わせ。
彼の日、舞い散る雪があまりにも。あまりにも、花の散り行く様に似ていたものだから。
寒さに震えながらも、何処か遠く。映る世界が、遠く。
まるで、花が咲くように、春の日のように。ただ、貴方への想いが、貴方との思い出が、其処に在った幸せが。
…今も。今は。今でさえ。
…今となっては、ただの夢まぼろしでしかないけれど。
雪のちらつく吉野山が見せた、美しくて残酷な夢だったけれど。
貴方が此処に居てくれたら。たとえ、私が貴方の全てになれなくても。私の全ては、確かに貴方だった。それだけで、私の全ては満たされていたのに。
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