化粧坂

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化粧坂

そうして、侍女のさいはらと翁の小六を連れ、静は奥州に向けて旅立った。恐らく、義経は奥州藤原氏を頼りに落ち延びている筈だと。 鎌倉から京への道をとって返し、静には全くの未知の土地である奥州へ。義経に再び(まみ)えるという願望だけを胸に、ひたすら歩いた。 長い旅路は、静よりも寧ろ、老いた小六にこそ辛いものがあったのであろう。女二人に気を遣いながら、道中の安全も確保してやりながら。白河の関を越え安積の宿に着く頃には、彼に限界が訪れていたのだろう。大槻村の辺りまで辿り着いた時、ついに彼は息絶えてしまった。小六を亡った悲しみと見知らぬ土地に女二人で取り残されてしまった不安とが、静とさいはらを襲った。 けれど。 その身を焦がして、待ち侘びて。いつか、いつかと泣き濡れて。それなのに。今此処で、立ち止まってしまったら次はもう無いのだと思えば、不安も何もかも鳴りを潜めた。有るのは。 「よしつねさま…」 有るのは、愛しい人の面影だけ。 小六を丁重に葬ると、静は立ち上がった。 再び歩を進めて、後もう少し。此の坂を登り切れば義経一行が居ると、風の便りに聞いている。漸く此処まで。平泉に届く前に、再会を果たせるのだ。     
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