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ざわめきが、どよめきが、躊躇うように広がり始め、やがて、舞が終わる。
暫時の静寂。
刹那、その静寂を突き破るように、大地に叩き付ける雨。
ほっ、と一息。そうして彼女は空を見上げた。
確かに雨は降っている。
人々は眼前に広がる光景に、言葉を失い見入るだけだ。
雨が。
あんなにも待ち望んでいた雨が降っている。世界が滲んで見えるのは。声にも成らず、ただ体が震えているのは。
これは喜びか、感動か。あるいは生き延びたと云う安堵か。なんと言葉にすれば良いのだろう、と。
ただ、誰かの「雨だッ」の一言に尽きるのかもしれない。それは、ただ、ただ歓喜する叫びであった。
久方振りの雨に、人々は濡れそぼつ事も厭わず、自ら雨に打たれに行き、そして互いに抱き合い喜びあった。
百日振りの雨は、草木に精気を与え、ひび割れた大地を潤した。
世界が息を吹き返す。
「彼の者は、神の子か。」
一部始終を御覧あそばされた後白河法皇が、呟かれた。
後に、法皇より『日本一』の宣旨を賜る事になる彼女は名を、静御前と云った。
それから暫くして。
静は出会ってしまう。白拍子としてこれ以上に無いほど名を馳せた彼女のその後を、決定付ける相手と。
再び、雨乞いの舞を奉納した、その場所で。
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