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優しい嘘
ゆらゆらと蝋燭の炎が揺れる。
どれほど熱く燃え上がろうと、風が吹けば掻き消されてしまうだけの果敢無い存在。
まるで私のようだ、と、大姫は独り言ちた。
解っているのだ。愚かではない。年端もいかぬなど、源氏の棟梁の娘にあるまじき言い訳。
政が綺麗事だけでは済まされぬ事など。
たとえ身内であったとて、否、身内だからこそ簡単には容赦できぬ事も。…身を以て、知っている。
けれど。けれど、あんまりではないだろうか。
愛しい人と今生の別れを強要された女に、その男の血を継ぐからと、子供の命さえ奪い取ると言い捨てるのは。
「よ し た か さま…」
大姫から、ぽつりと言葉が零れ落ちた。
二年前、を思い出す。
あれは旭将軍と呼ばれた木曽のおじ上との和睦の為の婚姻だったけれど、確かに自分は義高を慕っていた。
それなのに、
事態が急転するや否や用済みとばかりに討たれてしまった。
二度と会えなくてもいいから、生きていて欲しいと心の底から願った。だからこそ、逃げる手筈を整えたのに。何の意味も無かった。
…あの時の、悲しみと絶望といったら。
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