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今、同じような悲しみと苦しみと、やがて来る絶望に打ち拉がれている人が居る。
木曽のおじ上を討ったのは九郎叔父上だ。だから、義高様の事を思えば、今の九郎叔父上については同情の気持ちなど持てないで居る。可能なら私がこの手で、とも思う。
同情など出来ないけれど。今も憎しみが消えずにいるけれど。でも、叔父上が居なくなって悲しむ人の事までは、他人事と切り捨てる事が出来ない。
そんな事を言ったら、嫌な顔をされてしまいそうだけれど。
燃ゆる火を見つめ、今、愛し子を奪われ命を絶たれるという、大姫には想像もつかぬ場所に突き落とされた女の事を思う。
哀れ。
そんな言葉で済まされる筈も無い。ゆるりと、大姫は目蓋を閉じた。
話は、多少の時間を遡る。
文治二年四月八日。源氏の守護神を祀る鶴岡八幡宮にて、舞を舞うように命じられた静は、以前のようには断り切れなかった。
謀られた、とは言え、八幡神の御前である事もまた事実。
静は気持ちを切り替え、最も得意とする『しんむしょう』を舞った。
だが、切り替えた筈の胸の内に、それでもふつふつと沸き上がるものがある。己が身の不幸もさることながら、義経への恋慕の情と、ただひたすら彼の安否、である。
そうして。
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