1995年、1月。記憶。

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「避難訓練、避難訓練。大きな地震が発生しました。余震が続く可能性があるので、生徒は慌てず、騒がず、先生の指示に従ってグラウンドへ避難してください」 小学校六年生にもなれば、避難訓練も慣れたもので、生徒達全員、特別な緊張感は一切なかった。雪の降る寒い時期に、グラウンドへ出なければならないことに文句を言いながら、生徒達は皆、グラウンドへ向かった。 「なぁなぁ、昇太。今なら学校の中には誰もいないじゃん?ってことはさ、この前、担任にとられたアレ、取り返せるんじゃない? 」 クラスメイトの、剛也がお前に話しかける。クラスで一番太っていて、お調子者の剛也とお前は、いつも一緒だった。 剛也が言う「アレ」とは、先日、剛也が学校に持ち込んだ携帯ゲーム機のことだった。当然、校則で禁止されている。案の定、担任にそれが見つかり、没収されていたのだった。 「おれゲームボーイがないと、家でやることがないんだよ。スーファミは兄貴が独り占めしてるしさぁ。だから昇太、今がチャンスだろ?一緒に職員室に忍び込んでさ、担任の机からゲームボーイ取り返して来ようよ?」 「おーい!何の話してんだ? 」友哉が割って入る。友哉はお前と同じ団地に住んでいて、不良の兄の影響か喧嘩っ早く、このクラスの番長的存在だった。 「なんだよそれ!超面白そうじゃん、やべぇ! 」 やべぇ、友哉の口癖だ。テンションが上ってくると、決まってこの言葉を使う。友哉とは同じ団地に住んではいるものの、特別、仲が良かったわけではない。どちらかと言うと、お前の苦手なタイプだった。お前は乗り気ではなかったが、友哉に強引に計画に乗せられてしまった。 視聴覚室を曲がったあたり、絶妙なタイミングで三人は、グラウンドへ向かうクラスメイト達のつくる列を飛び出していった。誰にも見られては、いない。 「おい剛也!はやくしろよお前!太り過ぎなんだよ! 」 友哉が剛也を急かしながら、誰にも見つかることなく易易と職員室へたどり着いた。 お前は廊下を見張る。剛也は、おろおろとしながら友哉に引っ張られる形で担任の机を簡単に見つけ出した。友哉はよく、トラブルや問題を起こしているから、職員室へしょっぴかれることは日常茶飯事で、職員室内部の作りや、各教師の机の配置は熟知していた。 机の右側、一番下の大きな引き出しに目的の物はあった。
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