死因

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「お願いします! 妻を……どうか、妻を助けてください!」  男性の悲痛な叫びは残酷に否定された。 「残念ですが……奥様は既に……」  縋る目から、手から、力が抜けていく。 「そんな……」 「……今後の手続きについては担当の者が説明しますので」 「う……ぅぁあああああッ!」  遺体に取り縋り、泣き崩れる男性。医師はそのストレッチャーに乗る遺体をちらりと見やってから、顰めた眉を悔やみの表情で隠して背中を向けた。  白い廊下を歩く医師の脳裏に、数年前の記憶が蘇る。  あの時と同じだ。  医師がその遺体を見た時に覚えた違和感。それは遺体にあった共通点。  何故、あんなにも安らかな死顔なのだろうか。  数年前に見た遺体は男性であった。人混みで急に倒れたらしく、すぐに救急車が呼ばれた。心拍は停止していたが死亡確認が取れなかった為に近くの病院に搬送され、当時は研修医だった医師が蘇生を担当したのである。  そう長くかからずに死亡診断書を書く事になったのだが。  その時に研修医だった彼は遺体に違和感を覚えたのだ。結局、その違和感の正体が掴めずにいたのだが、つい先程ようやく気付いた。顔だ。  あの時の男性も、同じ表情を浮かべていたのだ。  まるで憑き物が落ちた様な晴れやかで満足げな表情を。 「憑き物、か……馬鹿馬鹿しい」  医師である自分がホラーやオカルトな思考をするなど。  そうは思いつつも、妙にしっくりきくるその感覚に医師はますます眉を顰めた。
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