死因

3/8
前へ
/8ページ
次へ
 それは突然だった。  夫と共に外出した先で知人に出くわした。ただ、それだけ。  そんな事は今まででもよくあった。夫とは見合いで縁付いたが、穏やかな気性の夫とは仲睦まじく、周りからは『似合いのおしどり夫婦』と言われた。自分でもそう思った。激しく愛し合って結婚した訳ではなかったが、静かに穏やかに愛を育んでいた。  夫に似合う服を見立て、夫が「似合う」と褒めてくれた新色の口紅を買った。もう結婚して十年以上経つし、自分には派手かと尻込みしそうなのを夫が褒めてくれたので勇気を出して買った。実は自分でも気に入っていたので背中を押してくれた夫には感謝だ。  軽く食事を済ませ、映画でも見ようかと話しながら歩いていた時に、知人から声をかけられた。 「ご主人とお出かけ?」 「えぇ、買い物に付き合ってもらったの」 「私の服を見立ててもらったんだ。むしろこっちが付き合わせてしまってるよ」 「あらあら、ご馳走様」  穏やかな笑顔の夫に知人が笑う。そのやり取りに私も笑う。 「本当に、いつ見てもアナタ達は仲睦まじい『おしどり夫婦』ねぇ」 「……!」  その言葉を聞いた瞬間、私は私の終わりを知った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加