死因

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 息が、出来ない。  以前、過呼吸を起こして同じ様に息が出来なくなった事があった。  だが、その時とは何かが違う。  あの時は自分の心臓の音がものすごい早さで頭の中に鳴り響いた。だが今は。  何も、聞こえない。  自分の心臓の音も、悲鳴を上げたであろう知人の声も、自分を気付かっているだろう夫の声も、何も。  地面が近付いてくる。違う。私が倒れていくのだ。顔面から倒れ込むかと思ったが、ぎりぎり寸前で視界が停止した。夫が抱き止めてくれたのかもしれない。目も瞑れなかったので、そのまま地面に激突とならずに済んで助かった。お礼を言いたいが言葉が出ない。息が出来ないので仕方ないのかもしれない。  普段、私を抱く力強い腕の感触すらわからない。視界がぼやけ、心配そうに覗き込んでいるのだろうとは朧気にわかるが表情までは判別出来ない。  あぁ、私、このまま死ぬんだ。  霞んでいく意識の中で、それだけはハッキリとわかった。  急性心不全か何かかしら?  あぁ、きっと夫は悲しむ。  ごめんなさい、アナタ。  ずっと、ずっと、一緒にいると思ってたのに。  ずっと、ずっと、アナタと一緒に、穏やかに、二人寄り添って……  そこまで考えて、ふいに雷にでも打たれたかの様な衝撃が私を襲った。
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