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「?! おい、どうした?!」
妻と外出した先で知人に出くわした。ただ、それだけ。
季節の変わり目。新しい服を見立ててもらう為に、休日に妻と出かけた。
男ではどうも無難に纏めようとしてしまう。ファッション、などというモノにたいして興味が無いせいもあるだろう。その点、妻は女性ならではの視点で店員と相談しながら服を決めていく。
選んだ服はオシャレよりも清潔感重視で年齢的にも着るのに抵抗の無いモノだった。さすがだ。
妻とは見合いだったが、何度か会ううちに控え目な性格を好ましいと思った。意外と芯は強くてここぞという所は譲らないが、そこも良いと思った。
結婚してからもそれは変わらない。周りから『おしどり夫婦』と呼ばれる度に、心の奥がくすぐったいが幸せな気持ちになる。
そんな妻が倒れた。
何の予兆も無く、突然だった。
倒れ込む妻をぎりぎりで抱き止める。顔面は蒼白で、目は虚ろ。慌てて心音を確かめると……聞こえない。妻の心臓の音が聞こえない。それどころか耳を当てた胸も動かない。
心拍も、呼吸も止まっていた。
「きゅっ、救急車を!」
知人が慌てて携帯を取り出して119をしている間に、蘇生処置をする。
人工呼吸、心臓マッサージ。会社の避難訓練で習っておいてよかった。
近くのお店の人がAEDのキットを持って走り出てきた。上着を脱がせてパットを当て、スイッチを押す。
ビクン!と妻の身体が跳ねる。
「すまん」と謝りながら処置を続けたが、救急車が来て病院に搬送されるまでに妻が意識を取り戻す事は無かった。
心臓が再び動く事も、無かった。
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