第一章 白い雪

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 雪に埋もれた四人を助けだしたのは、他ならない下山組だった。彼らは三日目の朝七時すぎに小屋を出て南の沢に向かったが、樹林の入口で迷ってしまった。そこは西の沢との分岐点でとっつきがだらだら坂だから用心しなければと、みな注意はしていた。しかし、丁度その辺りにさしかかった頃、運わるく急にガスがかかり始めた。みるみる視界がきかなくなり、数分後には完全にホワイトアウトの状態になった。空と山の境目はおろか、雪と大気の区別さえつかない。白くのっぺりした世界が一律に辺りを包んでいる。ごく接近している仲間同士が互いに認めあえるだけで、数メートル先はもう見えない。白い希薄な物質のなかを浮遊しているようだ。ただ雪中深く踏みこんだ輪かんの脚下を見るとき、初めて自分の体重を感じ、仲間の存在を確認できた。  そんななかでは地図も磁石もたいして役にはたたない。歩いた距離と勾配を頼りに感で判断する以外手がなかった。時刻はすでに十一時を回っている。急がなければならない。決断を迫られた数パーティーはホワイトアウトのなかで、ただちに混成会議をもった。  下山組一行のなかには西の沢からの別ルートで登ってきたパーティーもいた。彼らの情報は貴重なはずだった。万一、西の沢に迷いこんだとしても、予め打つ手を考えておくことができる。みな、息をこらしてその報告に聞き入った。  その内容は、しかし、たいして役に立つものではなかった。無理もない。冬山の特徴など余程の難所でないかぎり、どこも似たようなものだ。言葉で聞いて分かるものではない。彼らの報告にしても、視点を変えれば南の沢とまったく同じ条件になってしまう。それほど地形は似かよっているのだ。唯一違うところは、西の沢ヒュッテまでは南の沢の小屋までの約二倍の距離だということだった。つまり、迷いこんでも迷ったという自覚を持てないままやりすごしてしまうが、途中ビバークし翌日続けて下ればその日のうちには確実にヒュッテに辿りつけるということだった。     
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