第一章 白い雪

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 選択の余地はなかった。とりあえず感を頼りに南の沢へ下ろう。もしそれが西の沢ならビバークし下山を一日延ばせばよい。一行はリュックサックを背負いなおし、輪かんの紐を改め、ホワイトアウトのなかを出発した。 「それで、結局迷ってしまったんですね」  じっと聞いていた若者が医者の話を遮った。 「そう。こういう場合は、えてして悪い方へ事が運んでしまうものなんですなあ。昔風のいい方をすれば、運命のいたずらとでもいうんでしょうか」  下山組一行は、案の定、沢の入口を間違えてしまった。それに気がついたときはもう午後三時を回っていた。ホワイトアウトの状態はすでに脱し、引き返すことは容易に思われたが、あと戻りできる時刻ではなかった。西の沢組はテントを張り他のパーティーはただちに雪掘り作業にかかった。一夜を明かす雪洞を造らねばならない。  各パーティーがほぼビバークできる体制に入ったのは、それから約二時間あまりあとのことだった。日はすでになく、闇が山を覆っていた。闇を背景に幾筋もの縦縞模様を描いて雪は降り続ける。雪洞から漏れる明かりが雪の白さを際だたせるとき、闇の深さが一層計りしれないものに感じられた。     
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