第一章 白い雪

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 それは翌朝の未明近くに起こった。突然の地鳴りにみなびっくりして跳ね起きた。明らかに雪崩時に聞こえる唸り音だった。場所が気になった。設営地は外れてくれたようだがかなり近いところらしい。テントから、雪洞から、各々飛び出した。  見ると、それは十数メートルも行かない尾根の肩直下から起こっていた。現に、大小無数の雪塊が数キロの幅にわたって上になり下になり、激しくぶつかり合い混ざり合い、雪煙を上げ、不気味な唸り音を発し、獰猛な津波の波頭のようにみるみる下方に引いていくところだった。その勢いを目の当たりにしてみな、青くなった。まるで沢全体が大移動を始めたかのような光景だった。尾根の肩下はごっそりとえぐり取られ、数百メートルもあるかと思われる落差が軽い青みをわずかに残した夜明けの雪原を、瞬くまに切り裂いていった。それに沿ってなお断続的に小雪崩が起こる。時期と場所からはまず考えられない雪崩の発生だった。  異常な降雪量による表層雪崩か。とすればこの先なお雪崩れる危険性は十二分にある。一行は予定していたヒュッテまでの沢下りを断念せざるを得なくなった。 「おかげで私たちも助かったというわけですよ。それにしてもいいときに帰ってきてくれたものですな。山の神様が私達の味方をしてくれたのかも知れません」     
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