第一章 白い雪

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第一章 白い雪

 その年の冬は大荒れに荒れた。 例年なら、北アルプスの山岳地帯に初雪を見るのは、十月もなかばを過ぎてからのことだが、なぜかその年、九月のおわりにはまだ間があるというのに、槍、穂高などの主峰、後立山の主な頂きには、もううっすらと雪化粧が観察され、直後に山沿い周辺に軽い積雪があった。そして数日後には、平野部の町や村からも降雪の第一報が届くなど、一帯はみるみる白銀の世界に変わっていった。いつになく早い冬の到来だった。 雪は一時止んだが、数週間後には、微量ながらまた降りはじめた。 十一月になると降雪は本格的になり、晴れた日は一日もなく、雪おろしの屋根から、手を伸ばせばすぐにでも届きそうな高さまで、暗い分厚い雲がたれこめ、そこから細かく乾いた雪が、断続的に降り続いた。 十二月に入って数日晴天が続いたが、再び日が陰ると、今度は吹雪と化し、それがニ十日未明まで続いた。
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