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昼近くになって積雪は一時止まったが、それも二日ともたず、年の瀬もぎりぎり晦日の夕刻になってまた大雪となり、そのままたっぷり一週間、ひたすら降り続けた。絵に描いたような正月寒波の到来だった。
大雪のため大事をとって入山を控えていた多くのパーティーは、いらだち始めていた。
彼らはみな、長年、雪山を歩いてきた登山家たちだったが、年に一度の雪山のために有志を集め、入念な計画を練り、こつこつ準備を進めてきただけに、いくらベテランとはいえ、本番をまえに足止めをくうのはつらかった。待たされることがつらいのではなく、かぎられた時間と全身にみなぎる緊張感が、刻々と削ぎ落とされてゆくのがたえがたかった。いまを逃せばまた一年またねばならない。みな、祈るような気持ちで小屋の窓越しの小さな空を見つめた。
「決行!」
三十一日午前四時、高層天気図から「晴れ」を読み取ったリーダーの一人が決断を下した。夜明けまえの空はあくまでも透明で深く、あまりに魅惑的だった。輝く星は金属音さえ響かせて、見る者たちを魅了する。天候の急変など、だれが予測しえただろうか。目を閉じて下山を決意する以外、それに抗する道はなかった。
間もなく最初のパーティーが小屋を出発。しばらくして後続が次々とそれに続いた。厳寒の上空で北アルプスの巨峰がそっと手招きする、怪しい夜明けだった。
◇
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