第一章 白い雪

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 その夕刻近く、山は一変して猛吹雪となった。標高一八〇〇メートルのとある分岐点の山小屋に、期せずして大勢のひとたちが、こうして偶然に閉じ込められる結果になってしまったのだった。 ◇  やむなく小屋に閉じ込められた登山者たちは、一様に沈鬱な気分に陥っていた。  吹雪で登るも下るも叶わぬことに多少落胆はするものの、それが理由ではなかった。進退極まる状態も登山の大きな要素の一つ。苦しい状況を乗り越えてこそ山の醍醐味を味わえる。問題は別にあった。彼らの預かり知らぬところで起きた憂うべき醜行が、その原因だった。予め準備しておいたデポが、ひどい状態で荒らされていたのだ。 「デポを荒らすなんて、登山者のモラルダウンもいいとこだ」  冬山に備え予定のルートに予め必需品を運び込んでおくのは、ひとえに生き延びるための術だ。生死にかかわる問題だ。冷蔵庫に一週間分のビールを冷やしておくのとはわけが違う。小屋にいあわせた人々は、一様に声を大にして、その醜行を非難した。  翌日もその翌日も吹雪は止まなかった。三日目になってようやく風は弱まったが、降雪量に変化は見られなかった。  その日に下山を予定していたパーティーは決断を迫られた。吹雪が収まらなければ小屋にいのこりとなるが、そんな暇はない。下山後にやりくりできる時間の余裕がない。焦っていた。     
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