第一章 白い雪

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 ところが、六才の誕生日に蔵で白蛇をからかっていた長男が、右手の人差指を噛まれ大ケガをした。怒った友人は白蛇を捕らえ風呂の釜で焼き殺し、灰を庭にばらまいた。半年後、そのときの治療が悪かったのか、長男が急に骨髄炎をおこし、右腕を切断するという不幸にみまわれた。続いて妻が喀血して入院するやら長男が後頭部を打って智恵遅れになるやら、家運は傾く一方、とうとう世間では大っぴらに、あの家にはミーさん(蛇神様)の祟りがついとるぞ、というようになった。  当然、祟りを恐れて顧客からの注文は激減し、みるみる商いは細り、ついに問屋は破産してしまった。真に神の祟り、お祓いせねばと、ひとり御神岳(大山)に願かけ登山に向かった友人が、こんどは山の手前の小川に自転車ごと突っ込み、眉間を掘ってとうとうあえない最期を遂げてしまったというのだ。 「おはなしがお上手ね。それが実話なら、絵に描いたような神さんの祟りだわ」  女監督が皮肉まじりにいった。 「父は友人の家族から形見のピッケルをもらったとき、白蛇を友人の手に返してやるのが死者への唯一の供養でお祓いにもなると考えたのでしょう、彫金屋に頼んでこの白蛇をつくってもらったんですよ。以来、山には必ずこれを持って登っておりましてね。重くてもね。友人の供養と、道中安全のお守りを兼ねて」  話しおわると医者はピッケルをひと撫でし、またノートに向かってなにやら書き始めた。 「ついてないぜ、まったく!」  仰向けに寝ころんで雑誌をめくっていたカメラマンがいきなり立ち上がり、貧弱な棟を支えている剥き出しの柱の一本を二度三度、けとばして叫んだ。 「おまけに、デポがやられるとはな。いったい、どこのどいつだ、こんな破廉恥やらかすヤツは」     
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