2イデアなどない過去

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そんなくだらないことを思案しているうちに、目的の駅にたどり着いた。降りる群衆に身を任せて電車から降りるたびに、「人は流れに乗ればいい」というシャア・アズナブルの名言を思い出す。 I'm just another brick in the wall(僕は壁の一レンガに過ぎないのさ)。 駅の改札を出て、七分かけて会社の建物にたどり着く。 今日は梅雨なのに雨は降っていなかった。がっかりした。意気揚々と携えた折り畳み傘が不意になってしまったし、何よりもジメジメしていて暑かった。でもそれも七分間だけだった。 そうしてこの築五十年のビルのエントランスを潜り、オンボロエレベーターではなく健康のために階段を使う。決して健康になりたいわけではなく、そうすることで「運動をした」という客観的事実が身につくからだ。ソースは健康雑誌。くだらない。 8:52、出社。打刻をして自分の席に着く。 「おはよう」 「おはようございます」 上司のKが話しかけてくる。僕が心の中で本名を言わないのは、本名を言う程の価値がない人物だからだ。     
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