2イデアなどない過去

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まだあの電車の中で出会った意識の高い残念デブの方がいい。彼は毎日あの高級なスーツに身を包み、自己啓発本で己のモチベーションを高めるとともに周囲に自己を顕示することによって内外両方から「自信」を身につけ(自信をカギカッコで囲んだのは、僕にはそれがどうしてもヒーローごっこでお面をかぶる小学生にしか見えないからだ)、きっと晴れ晴れとした気持ちで仕事に臨むのだろう。せめてその「自信」が彼の仕事ぶりに結びつかんことを! だがこのKは、常にアイロンのかかってないワイシャツに身を包み、センスのかけらもないネクタイをつけている。不幸中の幸いは、彼が禿げていないことだ。白髪も少ない。髪に関しては彼はあの残念デブに優っている! でもそれだけである。一言で言って彼は「無能」である。部下を取りまとめることもできないし、尊敬できる要素を一つも持ち合わせていない。あと三十年早く僕が生まれていて彼の上司になっていたら、毎日罵声を浴びせて退職に追い込んでいただろう。そんな機会は永遠と訪れないだろうが。 「昨日のW杯はいやはやすごかったね、今年は日本代表に期待していもいい気がしてきた」 「ああ、そう言えばコロンビアに二対一で勝ったんですよね、僕も興奮しました」 興奮したのは事実だ。あの弱小日本代表が、女子の方が好成績を挙げているにも関わらず今だに格差の大きさ故にチヤホヤされるあの男子日本代表が、強豪から勝ち点を取ったのだ。なぜそれが興奮できずにいよう! 「やっぱりすごいよね、よし、なら僕らも彼らに負けないように仕事をしなくちゃな」     
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