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短い髪を三角巾に包んだ広い額の下で、くっきりとした眉が不穏な形に寄せられている。なまじ顔立ちが整っているだけに凄みがある。少なくとも「町のパン屋さん」という言葉から連想されるほのぼのとしたイメージからは程遠い、鋭い顔だ。
「あ、いえ……今は、誰とも付き合ってませんけど」
こんなことを説明する羽目になったのも、パンの香りに油断させられたせいだ。
恋愛対象が同性だということを頑なに秘匿しているわけではない。驚かれることが少ないのは、外見が「それっぽい」からだろうな、と思う。華奢な体つきに、ふんわりとスタイリグした少し長めの髪。陽輔とは対照的に男臭さ皆無の中性的な造りの顔。営業という仕事柄、スーツもなるべく柔らかい印象を与える着こなしを心がけている。
食品輸入会社「アルカディア」は、若い社員ばかりのオープンな雰囲気の職場で、唯吹も自分がゲイだということは隠していない。それでも、さすがに営業先でここまで堂々とカムアウトしたのは初めてだ。
いや、そもそもそんなつもりは毛頭なかったのだ。
事の発端は、唯吹が持参した発酵バターのサンプルだった。
「うちは、卵や砂糖やバターなんかを使うパンは置かないんだ」
けんもほろろにあしらわれて、唯吹は食い下がった。
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