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でもそんな不安を覆して、神木はゆっくり振り返った。端正な表情に少しだけ笑みが浮かぶ。
「倫(みち)」
変わらない声。向けられる笑顔に再び目頭が熱くなる。喉に閊えて声が出ない。
最後に言葉を交わしたのは、羽田空港の国際ターミナルの到着ロビーだ。四年経った今でもあの時の事を鮮明に覚えている。
あの時俺は酷い言葉を吐いた。
異国で志を挫かれた神木があの瞬間に必要だったのは、あんな言葉じゃなかったはずだ。それまで築いてきた友情も信頼も何もかも失った。神木にとって俺は既に友人ですらないかもしれない。
でも、こうして笑いかけてくれる。
「……ごめん」
嗚咽を飲みこみ絞りだすようにそう口にすると、神木は意味がわからないと言った風に眉を顰めた。
「何が? 演奏が酷かったことか?」
まるで何もかも忘れてしまっているかのように。
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