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「お前に気づかなかったら、俺は最後まで弾き切れたと思う」
焦っていたにしても、我ながらどんな言い訳だと突っ込みたい。神木の呆れ顔ももっともだ。
「んだそりゃ。俺のせいだとでも言いたいわけ?」
「ごめん、……ずっと会いたかったんだ」
神木は留学から帰ってきてその日から、勝手に雲隠れしたんだ。携帯もメールも住所も学校もずっと分からないままだった。
このまま、連絡先も分からないまま別れるなんて。
神木がなかったことにしたくても、俺はまだ引き摺り続けている。神木は意固地に腕を掴み続ける俺に、肩を竦めた。
「わかった」
きっと神木だって、何かに決着をつけるためここに来たはずなんだ。俺との関係に未練があったんだ。自惚れじゃないと信じたい。それ以外ここに来る理由なんてないんだから。
俺は本選への切符は手に入れられなかったが、四年間知りたくても知ることができなかった神木のアドレスを登録できた。
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